5月下旬の東京の暑さは記憶に残る。5月29日に東京都心で最高気温は31.6℃を観測するなど夏日になったせいもあり、東京を含む関東地方が6月7日ごろに梅雨入りすると、雨続きの湿度の高い鬱陶しさよりも、日差しが弱まり潤いの恵みの雨模様といった感じがする。とは言え、大雨には油断大敵。歳を重ねてきて、雨の日には雨の日らしく上手く過ごし、梅の実がなり、紫陽花が咲くこの時期が素敵だと思う瞬間が沢山ある。そして6月の最後の週末。2026年も半年が終わり来年への折り返しも近い。テイスティングノートも久々であるが、今にぴったりの日本酒を見つけて。吉川醸造の「雨降(あふり)QUEEN、純米酒(生酒)」。銘柄名の「雨降(あふり)の英訳は「Rain falls.」。
吉川醸造のある神奈川県伊勢原市に聳える大山は標高1,252m。山頂に雲や霧がかかりやすいことから別名「雨降山(あめふりやま 又は あふりやま)」とも呼ばれ、古くから雨乞いの山として信仰を集める霊山。山頂に降り注ぐ雨の雫は地中に沁み込み、長い年月をかけて濾過されながら、麓まで流れ、その伏流水の井戸水を酒造りの仕込み水として使う。水質は、日本では希少な硬度150~160の硬水(弱アルカリ性)。水が長い年月をかけて山麓の地中を下る過程で磨かれたことが示す硬度。硬水は、酵母の発酵を促し、低温下でも醸すことができ、すっきりと端正な、陰影の濃い酒質タイプに仕上げると言われる。吉川醸造では、高精米による吟醸酒や大吟醸酒規格だけでなく、敢えて低精米の「削らない酒」にも力を入れ、米の要素を活かしながら米の表層部のアミノ酸、タンパク質などの雑味成分を試行錯誤により美味に仕上げる挑戦をしている。「雨降(あふり)QUEEN、純米酒(生酒)」の精米歩合も75%と低精米であり、酒造方法は昔ながらの生酛仕込により、速醸可能な乳酸を添加するのではなく、時間をかけて自然界の乳酸菌を取り込み、酒母を造る工程では伝統的な山卸し(米を手作業ですり潰す)をし、手間もかけて醸造している。味と香りに影響を与える酵母には協会酵母の6号酵母が使用され、穏やかな香りで、すっきり、まろやかでソフトな酒質が目安になる。表ラベルの風格ある銘柄名「雨降」の文字は、大山に鎮座する大山阿夫利神社の神官により揮毫されたもので、阿夫利神社に祀られる酒解(さけどけ)神という酒造の神へ水と酒に対する感謝の想いが込められている。

雨降(あふり)QUEEN 純米酒(生酒)
原材料名:米(国産)、米麴(国産米)
精米歩合:75%
原料米:五百万石(新潟県産)
清酒酵母:協会6号
酒蔵名:吉川醸造、神奈川県伊勢原市
📒テイスティングノート📒
外観:透明度が高く、ハチミツレモンを思わせる淡い黄金色。粘性は中程度からやや高い。
香り:ほのかにヨーグルトを思わせる乳酸菌由来のやわらかなニュアンスに、シトラスや白ぶどうを思わせる爽やかな香り。さらに、白玉や綿あめを思わせるやさしい甘やかな香りが感じられます。
味わい:アタックでは、上立香と共通するヨーグルト、シトラス、白ぶどうを思わせる穏やかな酸と甘みが感じられます。中盤にかけてみずみずしい印象が口中に広がり、全体が調和しながら滑らかに収束していきます。

梅雨空から田を潤す雨の雫のように、口中へみずみずしい潤いをもたらす一杯。生酛仕込みという伝統の技と、米本来の魅力を引き出す低精米の酒造りが織りなす味わいには、受け継がれてきた技と新たな感性が美しく調和する、奥深い魅力が感じられます。
